蕪栗沼(かぶくりぬま)宮城県

水田が渡り鳥の採食地

沼周辺の水田がエサ場となってマガンなど多数の渡り鳥が飛来。水鳥のために冬にも田に水を張るなど、農家や地元の活動も強力。

  • 交通:東北道古川ICから車で35分/JR東北本線田尻駅から車で20分
  • 食事:農家レストラン 蔵楽(くらら)0229-39-7548(要予約)/四季食彩野の花 0220-58-5855
  • 直売:もっこり村の野菜畑・お花畑0220-58-3111
  • 関連ウェブサイト:大崎市古川観光物産協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

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2012年11月22日

ルポ にほんの里100選23 藤原勇彦 グリーンパワー2012年11月号から

  

マガンの聖地は自然再生の見本 / ふゆみずたんぼ米で震災復興へ 

  

夕刻、沼に戻ってきたマガンの群れ

 夕闇が迫る蕪栗沼(かぶくりぬま)の上空に、数羽から数十羽のマガンの群れが、次々戻ってくる。「雁行陣(がんこうじん)」と呼ばれる末広がりの隊列が、鳴き交わしながら水面上を旋回する。やがて、「落雁(らくがん)」の言葉通り急降下したり、脚を前方に出して着水したりして、水面に落ち着く。9月20日ごろに今年の「初雁(はつかり)」がやって来た蕪栗沼で、このところ毎夕展開されている「マガンのねぐら入り」だ。

 蕪栗沼は宮城県北部、大崎市にある広さ150㌶ほどの淡水湖。渡り鳥の越冬地として知られているが、周囲を田んぼに囲まれ、意外なほど集落も近い。シベリアから毎年秋にやって来るマガンやオオヒシクイ、オオハクチョウ、カモ類などの渡り鳥は、9月中は、まだ数千羽の単位だが、秋冬の最盛期には湖面を、10万羽以上が埋め尽くす。一説には、日本に来るマガンの半数以上が集まるという。水辺にはマコモやヨシ、ヤナギが群落をつくり、タコノアシ、ミズアオイといった希少な植物も生えている。魚類ではメダカやゼニタナゴ、鳥類ではオジロワシやオオタカなど、確認された動植物は1300種以上。2005年には沼と周辺の水田が、湿地の維持保全のためのラムサール条約登録地となった。

  

干拓地を湿地へ戻す

 

刈り入れの済んだ田んぼで落ち穂拾いするマガンの群れ

 この人里にある豊かな自然の光景、ことに湖面で眠るマガンの姿は、実は20年近く前からの、意識的な自然回復事業によってもたらされたものだ。

 過去に氾濫を繰り返してきた北上川水系の自然の遊水地だった蕪栗沼は、周辺の干拓が進み、土砂流入や植物繁茂により陸地化が進んでいた。洪水調節機能を取り戻すため沼の全面掘削事業が計画されたが、環境保護を求める声や、1997年の改正で河川法の目的に「河川環境の整備と保全」が入ったのを機に、流れが変わった。行政、有識者、民間の関係者を集めた「蕪栗沼遊水地懇談会」が形成され、環境の保全と洪水調節機能の両立を目指した蕪栗沼環境管理基本計画を策定。その後、計画に沿って沼に隣接する50㌶の干拓地を湿地へ戻すとともに、行政からNPOまで含めた実行組織「蕪栗沼環境管理会」が、越流堤の整備、植生の管理などを行っている。

 環境の改善などによって、渡ってくるマガンは、1999年の4万1000羽から2007年の11万7000羽へと増加し、昨冬のピーク時は16万羽を超えたと推定されている。マガンは田んぼの落ち穂やイネ科の雑草を餌にするため、稲作にとって「害鳥」と見なされることもあるが、地元大崎市では、農業者の理解を得るため渡り鳥による食害を補償する条例を制定した。農業者の中にも積極的に、冬場に田んぼへ水を張る「ふゆみずたんぼ」で有機農法を行い、渡り鳥のねぐらをつくるとともに、その名前を環境保全と食の安心・安全に寄与するブランド米として売り出す動きも出てきた。

  

過密化の解消が課題

  

 蕪栗沼は、いまや農業と自然保護の両立を目指す自然のワイズユース(賢明な利用)の見本として、高く評価されている。この経過に当初から深く関わってきた地元のNPO、「蕪栗ぬまっこくらぶ」の戸島潤・副理事長は「自然再生の画期的な例だと思う。22年前、自分がこの地域に関わったころには、蕪栗沼には渡り鳥が3000羽ぐらい。一方、近くの伊豆沼には3万羽が飛来して過密状態だった。何とか蕪栗沼に渡り鳥を分散誘導して定着させたいと思っていたが、1996年から地元の猟友会が沼での猟銃使用を自粛してくれて、飛躍的にマガンが来るようになった。田んぼを湿地に戻したことを含め、関係者のさまざまな話し合いの成果だ」という。

 「蕪栗ぬまっこくらぶ」は、約120人の会員と3人の常勤職員で運営され、毎月の「蕪栗沼通信」発行やホームページによる発信、水質・動植物のモニタリング調査、ゴミの不法投棄の監視、堤や作業道の除草などを行っている。エコツアーや蕪栗沼を利用した環境教育にも力を入れ、地元の小学校などに講師の派遣もしている。最近では、増え過ぎると陸地化を招きかねないヨシをペレット化し、燃料として利用するプロジェクトに取り組んでいる。いまの課題の一つは蕪栗沼に集中し過ぎて餌場の不足や病気の懸念が生まれたマガンを、沼から離れた「ふゆみずたんぼ」や別の湖沼に誘導することだという。「マガンは、親から子へねぐらを教えるので、一度居つくとなかなかよそへ動かない」。その保守性が壁になり、なかなか簡単ではないという。

  

震災復興を機に地域連携

 

「ふゆみずたんぼ米」のラベル

 東日本大震災は、沿岸部だけでなく東北の内陸部にも大きな爪痕を残した。蕪栗沼では越流堤が沈下し、一部に亀裂が入るなどで、いまも修復工事が行われている。大崎市全体では、死者17人、3000棟の住宅や店舗、公共施設が全半壊するなどの被害が出た。福島第一原発事故の影響で、これまで都市部などへ高値で販売されていた蕪栗沼の「ふゆみずたんぼ米」も、昨年度は売れ行きが落ち込んだ。

 災害からの復興の取り組みの一つとして、大崎市は平成23年度から「蕪栗沼ふゆみずたんぼプロジェクト」を始めた。「ふゆみずたんぼ」が生態系の力で水や土を浄化する作用を持ち、津波被害を受けた水田の塩害を減らす効果があることに着目し、南三陸町、塩釜市などで栽培実証実験を行っている。また、地域の農林水産資源を供給する多様なルートをつくろうという試みも動き出した。大崎市、南三陸町、塩釜市の農林水産物のオーナー制度や宅配サービス「ふるさと便」、「ふゆみずたんぼ米」と地域の食材を組み合わせたブランド弁当の開発、ヨシペレットの製造・使用の拡大、そしてそれらの現場を巡るエコツアー、仙台市や首都圏でのプロモーションなどの企画をラインアップした(問い合わせ先:大崎市産業政策課☎0229-23-2281)。マガンのために始まった「ふゆみずたんぼ米」も、この秋はプロジェクトの主戦力として、売れ行き回復が期待されている。

                    (グリーンパワー2012年11月号から転載)

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