八郷(やさと)茨城県

筑波山麓の茅ぶき集落

筑波山麓(さんろく)に茅(かや)ぶきの民家が40戸点在。「筑波流」のふき方は、軒を何層にも彩るなど粋な工夫を誇る。持続的な農業にも積極的。やさと茅葺き屋根保存会も茅刈りなど活動中。写真は大場家。

  • 交通:JR常磐線石岡駅から車で50分/常磐道千代田石岡ICから車で20分
  • 特産:イチゴ、梨、ブドウ、リンゴ、柿などの観光果樹園が多い
  • 直売:柿岡直売所 0299-44-8310/ゆりの郷物産館(立寄り温泉に付属)0299-42-4126
  • 宿問い合わせ:石岡市観光課 0299-23-1111
  • 関連ウェブサイト:石岡市八郷商工会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

2012年05月29日

八郷のフットパスを歩いた

  森林文化協会は、2009年に朝日新聞社と共催で選んだ「にほんの里100選」の各地を訪問し、地元との交流を図る「フットパスツアー」を主催している。「あぜ道や集落の中など日常風景の中を歩いて、各地の自然のめぐみを生かした暮らしやなりわいを学ぼう」と参加者を募集し、全国を歩くプログラムを展開中だ。

      2012年5月19日、茨城県石岡市の「100選」の里、「八郷」地区を訪れた。参加者は42人、大阪や福島県から泊まりがけで参加してくれた人もいる。八郷「フットパス」のポイントは、「水エネルギーで作る杉線香」「住民が守り続けた薬師堂への道」「かやぶき民家の残る集落散歩」、そして「地元NPOによる地域食」。天候が良すぎて少し疲れてしまった人もいたが、地元の方たちの親切なおもてなしに参加者一同、大感謝の1日だった。

線香の材料になるスギの葉

 

  八郷は筑波山を西に仰ぐ山麓の農村地帯。おだやかな気候を生かして、イチゴ、カキ、ナシ、ブドウなどの果樹栽培が盛んだ。ヤダケを使った弓矢づくりなど、伝統産業も残る。杉線香もそのひとつ。私たちは、水車を使って100年ものあいだ線香を作り続ける駒村道廣さんの工房を訪れた。

   

  筑波山麓から流れ出すゆたかな沢水を受けて水車は動いていた。水車小屋の中では木製の歯車がゴトゴト回り、10本ほどのケヤキ製のきねが上下し、線香の材料になるスギの葉をついている。乾燥したスギの葉がゆっくり時間をかけてパウダー状になり、後は湯と混ぜて練り、板の穴からところてんのように押し出して乾かすと線香ができあがる。混ぜ物のない杉線香は地味な土色をしていた。周辺の山で採れるスギの葉、絶えることのない水エネルギー。線香はまさに「風土産業」。生きている人にとっても大切ななりわいだし、死者にとっても好ましい自然のめぐみだと思った。

  

  さて、いよいよ「フットパス」。

  

  午前の道は、菖蒲沢という集落にある薬師堂への古道だ。地元の方の案内で薬師堂へ。お堂の手前の山中に広々とした場所があり、「こんなところに水がある」と一瞬びっくりしたけれど、それは弁天池。黒い水が深く静かに、回りの杉木立を映し込んでいた。山門は跡を残すのみでかつての面影はないが、ぽつんと残る石灯籠や苔むし古びた石段に、「かつてはたくさんの参詣者で賑わったそうです」という説明もうなずけた。

  

  集落人口が減り続ける小さな里で、こうしたお堂や回りの環境を手入れし、守り続けるのはたいへんなこと。でも逆に、小さな里だからこそ「みんなで守り続けるものを持っている」ということが大事なのかもしれない。里の暮らしは、いちばん底のところでそんな「誇り」に支えられているのではないか。

  

  昼食会場は、菖蒲沢集落のとなりにある朝日地区の旧小学校。2004年に閉校となった木造の朝日小学校を、地元の人たちがNPOを立ち上げて再利用、農作業や食づくり体験などのプログラムを提供する「朝日里山学校」としてよみがえらせた。

 

  旧教室を利用した「食堂」の前の廊下に、炊き込みごはんやセリのおひたし、きゅうりのたまり漬け、地元野菜の天ぷらなどが並んだ。参加者は、小学校の給食よろしくお皿をもって並び、バイキング形式で地元料理を皿に盛る。そして具だくさんの味噌汁、地元産のそば粉をつかった手打ちそば、薪を使った窯で焼いた焼きたてのピザ…。たっぷりの昼食だったけれど、味噌汁やソバをおかわりしたりして、みなさん、けっこうたくさん食べていた。

 

  「天ぷらがからっとしていておいしいねって揚げている人に聞いたら、コツを教えてくれた」「どうするの」「衣に臭いがつかないくらいの量の酢を入れるんだって」「へぇー、家でやってみよう」などという女性参加者の会話も楽しそうだった。

 

  午後のフットパスは上青柳集落。2軒のかやぶき民家が残る。ぐるっと歩いてその2軒のお宅に立ち寄った。

  2軒とも大きな旧家で、まずはその民家としての力強さに驚かされた。

  1軒目の木崎眞さんは、「やさと茅葺き屋根保

上青柳集落の茅葺き民家(木崎清彦さん宅)

存会」の会長をしている。お茶とお菓子を準備して、奥さんといっしょに待っていてくれた。「屋根材の茅はどこから?」という質問に、「つくば市の高エネルギー研」との意外な答え。この高エネルギー加速器研究機構は素粒子を研究する機関で、100ヘクタールもの敷地の地下に、1周約3キロの加速器が埋まっている。しかし地上部はススキの原。これを保存会が、ボランティアなどの応援で2004年から刈り取って、八郷地区の茅葺きの補修に使っているのだという。だから「茅の心配はない」と木崎さんは言う。「問題は茅を葺く職人なんだ」とのことだった。

 

  2軒目もやはり木崎さんという。ふつうはおばあちゃんの1人暮らしだが、この日は若い木崎清彦さんが、わざわざ里帰りして説明してくれた。やはり「高エネ研」の茅を使って葺いているという。8年くらいかけてぐるっと補修する予定とのことで、よく見ると屋根に新旧の部分が混じっていた。ふだんはおばあちゃん1人暮らしの大民家だが、武蔵野美術大学の学生さんたちが定期的に泊まり込んでは、地区の人たちの協力で野外アートの制作・展示をやっているという。「学生さんたちは、この古い民家を気に入って使ってくれている。こんなつながりもあるので、以前は維持がたいへんだと思っていた茅葺きだが守っていきたい」と清彦さん。

 

  屋敷の角に虚空蔵さんを祀る建物が、モチノキの生け垣に囲まれて建って

筑波流の茅葺き。わら、茅、竹の積み重ねが独特の模様に

いた。この建物も茅葺きだ。棟の「きりとめ」の部分に「卍」模様が刈り込まれて描かれている。こった意匠だ。

 

  このあたりの茅葺きは独特で、筑波流、というそうだ。卍模様も独特な職人技だが、軒下に現れる部分が、古い茅やワラを重ねてバームクーヘンのような美しい縞模様になっている。実用を越えた意匠と言ってもいい。筑波流に、里としての歴史の古さ、豊かさをかいま見た気がした。

2012年05月22日

里人の信仰心が凝縮した「薬師古道」/里100選の地・八郷に復活

◇グリーンパワー 2010年5月号の掲載誌面を画像(PDF)でアップしました。

  22ページ → PDF(グラフ)

  23ページ → PDF(本文・地図)

                            (投稿・森林文化協会)

  

1 2 3

サイクル旅日記
ふれあい、自転車の旅
にほんの里100選をめぐった記録
崔宗宝、バリトンの旅
にほんの里100選をめぐる
オペラ歌手 里の歌旅