18. 茂木町北部地区

茂木町北部地区(もてぎまち)栃木県

里山を利用しつつ保全

丘陵状の里山。雑木林、棚田、集落の景観が調和する。シイタケ原木など里山の利用も。棚田は小規模ながら手入れが行き届く。

  • 交通:真岡鉄道茂木駅から車で10分/北関東道宇都宮上三川ICから車で30分
  • 特産:那珂川の鮎、川岸台地のソバ、シイタケ、ユズなど
  • 食事:そばの里まぎの 0285-62-0333/大瀬観光やな 0285-63-2885
  • 直売:もてぎプラザ野菜直売所 0285-63-5672
  • 関連ウェブサイト:茂木町観光協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

18. 茂木町北部地区

2012年10月19日

ルポ にほんの里100選② 藤原勇彦 グリーンパワー2011年2月号から

 

今も生きる里山を伐る文化 / 広葉樹の「低林施業」で黒字を出す

 

萌芽更新中のクヌギ・コナラ林

 点在する農家の裏山が、おだやかな日差しを浴びて、遠目には、猫の和毛(にこげ)のように、白っぽく輝いて見える。栃木県茂木(もてぎ)町一帯の雑木林。近くに寄って見れば、葉を落としたコナラやクヌギの若木たちだ。一帯で15年にわたり林業普及指導員を務めてきた県自然環境課の津布久隆(つぶくたかし)さんは「このような有用種の木の純林が、茂木町の里山の特徴。針葉樹や常緑照葉樹が混じってモザイク状になるのは、本来の姿ではないのです」という。一面の若い落葉広葉樹林は、茂木町に今も「山(=森)を伐る文化」が存在する証しなのだ。

   

コナラの若木でシイタケ原木

 

 昭和20〜30年代に植樹されたスギ、ヒノキの人工林が、全国でそろそろ伐採適齢期を迎える。しかし木材価格は低迷し、伐採はもちろん、手入れさえ困難をきたしている地域が多い。この林業受難時代に、茂木町には、元気な「黒字」経営の民有林があると聞いて、訪れてみた。「広葉樹林は、それなりにお金になります。ならなければ、山持ちさんも木材の生産業者もやってられなくなりますから」。スギ・ヒノキの針葉樹でなく、広葉樹による「成り立つ」林業。その仕組みを、津布久さんに聞いた。

 基本は「低林施業」とシイタケ原木生産だ。低林施業は、もともと薪炭材を取るため、この地方で伝統的に行われてきた。ほぼ20年周期で、コナラやクヌギが高木にならないうちに伐採する。再生力の強いこれらの木は萌芽(ほうが)更新で芽を出し、数年で森に戻る。昭和30年代の燃料革命を経て薪炭材の需要が減った後も、茂木町では、シイタケ原木生産のために、この方法の里山管理が一定程度続いてきた。背の低い林だから木も細く、伐採後に人力で木寄せし、軽トラックなどで搬出できる。林業経営につきものの大型機械も不要だ。木材生産業者に頼んでも、経費は1㌶当たり50万円以下という。シイタケ原木は90㌢1本が150円程度。1㌶で通常5千本くらいとれるので、計約75万円になる。業者をいれても赤字は出ないし、所有者が自前でやれば、そこそこの収入といえそうだ。

    

どんどん伐る篤林家

 

 近郊の篤林家のクヌギ林。「あっ、伐ってますね」。以前にいったん伐採し、切り株から萌芽更新して若木に育っているはずだった。訪れてみると、きれいにまた皆伐されている。真新しい切り株は、年輪が4つ。津布久さんでさえ意表を突かれるほど早く、たった4年で伐採されたのだ。切り株から推定して、太さは直径5㌢くらい。「菊炭用にぴったりです」。「菊炭」は茶道用の高級炭で、シイタケ原木ほどの量ではないが、茂木町のクヌギの大事な用途の一つだ。地元には今でも炭焼き組合があり、1㌔千円近い菊炭をはじめ各種の炭を生産している。菊炭の用材は、太すぎず樹皮がしっかり木部に張りついている若木が適し、90㌢1本50円ほどで取引される。地元にはクヌギの伐りごろを表す「7年で伐らぬ馬鹿、8年で伐る馬鹿」ということわざが残っているというが、上手に萌芽更新させて4〜5年のサイクルで伐れば、シイタケ原木より効率的だ。

    

強度の抜き伐りで採算

 

抜き伐りして明るい雑木林と津布久さん

 もちろん、茂木町といえども、すべてが篤林家というわけにはゆかない。林業者の高齢化と過疎化で、雑木林が放置され、高木・大径木になり、さまざまな樹種が混じることもある。しかし、一見、手のつけようがなさそうなそうした雑木林も、一定の条件が整えば、収支をトントンにする方法がある、と津布久さんはいう。強度の抜き伐りで、高木と低林が混じった林を形成する「中林施業」だ。

 作業は森林組合や造林会社の専門技術者が、大型機械を使って行う。作業道も必要で、経費は低林施業の2〜3倍はかかるという。低林施業の林より材の量は増えるが、太すぎてシイタケ原木にはならない。製紙用チップも考えられるが、それだけでは単価が低く採算がとれない。そこからが工夫だ。

 まずコナラやクヌギを、キノコ栽培の菌床チップ用として、できるだけ仕分けする。単価は製紙用チップの倍。クリやヤマザクラなどは、4㍍のまっすぐな材がとれれば、1立方㍍1〜3万円で売れることもある。その他の樹種で、家具や工芸品の用材になるものもある。肝心なのは、販路開拓だ。近県にネットワークを広げ、土地の事情に合わせた林産品を出せば、売れるはず。「森林組合に営業担当者がいると一番いいのですが」。いまは津布久さん自身が売り先を開拓し、山持ちや森林組合に紹介することも多い。

 さらに決め手は「造林補助金」の活用。栃木県の場合、皆伐でなく「抜き伐り・搬出」すれば、1㌶当たり20万円程度助成されるという。有用性のある高木を残して、下層に光が当たるぐらいまで抜き伐りし、そこに萌芽更新や天然下種更新、植樹でコナラやクヌギの低林をつくる。この「中林施業」方式で収支を計算すると、当初の手入れはおおよそプラスマイナスゼロだが、数年から20年後までに低林を伐採すれば、黒字が出るという。

    

落ち葉買い上げ堆肥に

 

15㌔入りの袋に集めた落ち葉は町が買い上げて堆肥に

 かさこそ音を立てる落ち葉を踏んで、コナラやクヌギの林を歩く。冬の落葉広葉樹林は明るく暖かい。光が当たる林床からは、カタクリやシュンランのような「スプリング・エフェメラル」も生えるかもしれない。楽しげに林で落ち葉掻きをする老人がいる。落ち葉は15㌔400円で町が買い上げ、堆肥にして道の駅などで売っている。老人の掻いた葉は、孫への小遣いぐらいには変わるかもしれない。これが茂木町の文化だ。

 あらゆる場面で、あらゆる方法で、山の資源を収入に変える。生業のすべてを支えなくとも、一助にする。それが、山の自然と環境を守ることにつながる。「このやり方で、栃木県全体の雑木林を、手入れの行き届いた経済林にしたい」。それが津布久さんの夢だ。

    (グリーンパワー2011年2月号から転載)

 

2012年09月18日

ルポ にほんの里100選⑰ 藤原勇彦 グリーンパワー2012年5月号から

      

負の遺産「放射性降下物」 / 用途に沿った対処法がカギ 

  

 「大気中に放出された放射性物質は、陸へ2割、海へ8割広がりました。陸の約7割が森林です。単純計算すると、放射性降下物の総量の15㌫程度が、森林に落ちたと考えられますね」。里山林の生態学の専門家、宇都宮大学農学部森林科学科の大久保達弘教授は、そう言って眉を曇らせる。

  

森の放射性降下物への懸念 

    

 福島第一原発の事故後、森林は放射性降下物を吸着し、大気を浄化するフィルターの役割を果たし、都市や農地を放射能汚染から守った。しかし、1年経ったこれからは、蓄積された放射性降下物が、どれくらいの時間、どのような経路で生態系へ影響を及ぼすか、懸念しているという。

 大久保教授らが協力する農学部里山科学センターの活動グループは数年前から、栃木県南那須地域の棚田が広がる中山間地で、伝統農法の公開講座を主宰している。受講生、地元篤農・篤林家、インターンシップ・ボランティア学生、教員が一緒になって、落ち葉掻きをし、それを肥料として水田に入れる。大学農場で開発した新品種のコメ「ゆうだい21」を作付けし、特別栽培米「げんき森もり」の名称で販売する。条件が不利な中山間地の農林業再生へ向けた、6次産業化の取り組みだ。落ち葉をさらった後の森林は、シイタケ原木生産用に、短期間に皆伐と萌芽更新を繰り返し、落葉広葉樹林の回復を図る予定だった。しかし昨年夏、栃木県内で生産された腐葉土から高濃度の放射性セシウムが見つかるなどして、落葉広葉樹林の林床の放射能汚染が判明し、このプロジェクトは中止せざるを得なくなった。

  

汚染を外へ出さない生態系 

    

放射能汚染影響シンポで講演するジィプツェフ准教授(左)

 3月29日、宇都宮大学で、大久保教授らの呼びかけによる「福島原発事故の森林生態系への放射能影響を考える」公開シンポジウムが開かれた。25年にわたってチェルノブイリの森林汚染の研究をしてきたウクライナ生命・環境科学大学のセルゲイ・ジィプツェフ准教授、森林生態系での放射性物質の動き方を研究する放射線医学総合研究所の吉田聡ユニット長、恩田裕一・筑波大教授、森林総合研究所の金子真司氏ら、現場で調査に携わってきた研究者が講師となって、最新のデータをもとに討論した。研究者らに交じって、林業従事者や森の関係者も多数参加し、この問題への世間の関心の高さをうかがわせた。

 シンポジウムでジィプツェフ准教授は、「チェルノブイリでは、25年たっても放射性物質が森の生態系の中で移動している。対策を立てるには汚染マップ作りやゾーニング、長期的モニタリングシステムの確立が重要だ」と訴えた。他の研究者からは、「森林から放射性物質が来るというのは都市伝説。森林の生態系はセシウムをあまり外部へ出さない。福島県の300~600㌔ベクレル/平方㍍の汚染された森でも、周辺の渓流、湧水、井戸水のセシウムは、検出限界以下だった」との指摘をはじめ「調査地点の実データと比較してみると、文部科学省の航空機モニタリングの空間線量率マップはかなり正確で、汚染度を測る基礎資料として利用可能」「樹冠の放射性セシウムは降雨や落葉などで林床部に移行するが、土壌深くには余り蓄積しない」「下草と落ち葉を除去することで、空間線量率が、針葉樹林で7割に、広葉樹林で6割に減った」「セシウムは、植物の根から吸収され葉や樹体に移行する」「シダ類、キノコはセシウムを吸収しやすく、数年経って線量が高くなることもありうる」などの新しい知見が報告された。さらに今後の課題として、「建築材の指標値がまだない。その設定が急務」であること、汚染レベルの地域的な違い・林産物の用途・利用のパターンに沿ったきめ細かな対応の重要性、情報をデータベース化し共有する必要性などが討論された。

  

伐って山を持ちこたえる 

    

 農水省・林野庁は、昨年来「キノコ原木」「菌床用培地」「薪」「木炭」などについて、放射性セシウム濃度の当面の指標値を設定し、それを超えるものについて都道府県や業界団体を通じて流通を行わないよう指導してきた。「木質ペレット」「ストーブ燃焼灰」「こんにゃくのあく抜き用の灰」などについても、利用方法に注意を喚起している。

 宇都宮市からほど近い栃木県茂木町を中心に、コナラやクヌギの広葉樹林林業の黒字化を推進してきた県自然環境課の津布久(つぶく)隆さんは、「栃木県北部の原木シイタケ産業は、休業状態。ホダ木生産も、しばらくは無理と思う。ただ、樹皮を取り除けば菌床シイタケ生産用のチップには使える。ともかく今は菌床用にでも、山(森)を伐って更新させながら広葉樹林林業を持ちこたえなくては」という。個人的にはその後の処理を考えれば、「取り除いた樹皮や落ち葉などを山の外に出さないで、林内の問題のない所にストックヤードをつくって貯めておくのも一つの方法」と考えている。

  

落ち葉堆肥はこれまで通り 

    

落ち葉も使って製造されている「美土里たい肥」

 茂木町は、バイオマスを活用した循環型地域づくりを行っていることでも知られている。町の「有機物リサイクルセンター美土里館」を中心に、町内から出る生ごみや落ち葉などのバイオマスを活用し、環境保全型農業、ごみのリサイクル、森林保全、地産地消に生かしている。具体的には、町民が集めた落ち葉を、15㌔400円で買い上げ堆肥を製造、町内外に販売している。この堆肥生産は、昨年、農水省の自粛要請などで一時停止したが、今は通常通りの運用に復活している。落ち葉には少量の放射線量が認められるが、放射性物質を含まない生ごみ、牛フン、もみ殻、竹などを混入することで、出来上がった堆肥は、暫定基準値の400ベクレル/㌔グラムを下回り、100ベクレル/㌔グラム程度におさまっている。このくらいなら、土壌に施肥しても、作物の放射線量は、検出限界以下になるという。茂木町環境課の矢野健司課長は「町独自で放射能測定機を整備、食べ物、水、土、大気への不安を払拭(ふっしょく)するための検査を出来るようにします。負の財産は出来るだけクリアしながら、自然とうまく付き合って恵みを大切にし、農業振興と里山保全を持続的に行う方策を、震災前と変わらず探ってゆきたい」という。今は、近々販売が始まる、竹を粉にして乳酸菌発酵させ土壌改良などに利用する「美土里竹粉」に、里山の荒廃回復の期待をかけている。

 (グリーンパワー2012年5月号から転載)

 
             

1 2

サイクル旅日記
ふれあい、自転車の旅
にほんの里100選をめぐった記録
崔宗宝、バリトンの旅
にほんの里100選をめぐる
オペラ歌手 里の歌旅