増富(ますとみ)山梨県

都市と交流で村おこし

NPOや企業と山里の遊休農地を復活。大学研究室とも連携し、バイオマスや小型水力発電によるエネルギーの自給自足を目指す。

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2012年11月21日

ルポ にほんの里100選⑩ 藤原勇彦 グリーンパワー2011年10月号から

 

中山間地での小水力発電の可能性は? / 河川法が壁、総合特区指定に期待

 

今は使われていないナノ水力発電用のパイプ

 かなたに名峰・瑞牆(みずがき)山がそびえ、棚田や段畑が広がる山梨県北杜(ほくと)市の郊外、「にほんの里100選・増富」。その最も奥まった黒森地区に、1本の不思議なパイプがある。直径30㌢ほどの塩化ビニール製。長さは見える所だけで数十㍍はある。先端は斜めに高さ3㍍ほどの落差を下り、池に向かって口を開いている。ただしそれだけ。一体、何なのだろうか。

  

▪不思議なパイプ▪ 

  

 「これができた時、国土交通省から、許可を得てやっているのかと、叱られまして」と苦笑いするのは、北杜市のNPO「えがおつなげて」の曽根原久司代表。パイプは、約5年前、黒森地区の人々と東京農工大学、「えがおつなげて」の3者が、集落の電力を賄う実験をするため「自然エネルギー推進協議会」を発足させてつくった、小型の水力発電装置だった。当初はパイプの中を水が流れ落ち、3㌔ワット時の能力を持つプロペラ式の発電機が取り付けられていた。しかし、出来てから、取水源が一級河川の支流であることが分かり、管理者の国土交通省から河川法に基づく指導があって、使えなくなっていた。今はもう発電機は取り除かれ、パイプの中は空っぽだ。中山間地域の北杜市には、小型水力発電に使えそうな小規模な水流がたくさんあるが、実際に利用しようとすると、高い「法の壁」がそびえているのだ。

  

▪技術的には完成▪

  

三菱地所などが協力する増富の「空土ファーム」。ディーゼル用燃料油を採るヒマワリが栽培されていた

 福島第一原子力発電所の事故以来、巨大で集中型のエネルギーシステムよりも、小規模分散型で、再生可能なシステムの有効性に、注目が集まっている。具体的には太陽光発電、小水力、風力、バイオマス、波力など。8月には、再生可能エネルギー固定価格買い取り法案も可決された。しかし、実際に有効性を持つかどうか、持つのはどの方式か、それは現実の洗礼を受けてみるほかはない。今回は、小水力発電、とくに極小のシステムについて曽根原さんに実践的経験を聞いてみた。

 小水力発電は、規模によって慣習的に様々な呼び方をされる。100㌔ワット時以下をマイクロ水力、1千㌔ワット時以下をミニ水力、さらに、増富の例のような数㌔ワット時程度の極小のものは、ナノ水力とも呼ばれる。曽根原さんによれば、発電のための装置自体は、すでに技術的には完成品に近いという。黒森での実験に使った3㌔ワット時の発電機は、約60万円でメーカーから市販されている。費用がかかるのは、発電機より、むしろ導水路や落差を確保するための設備工事のほうだ。地形などの条件にもよるが、200万円以内で設置出来る場所が適地と考えると分かりやすい。この範囲であれば、設置費用は太陽光発電とほぼ同等か、やや高めの程度におさまる。

 水力は、太陽光のように夜間に能力を失うことがない。3㌔ワット時の発電能力は、ほぼ30アンペア契約の家1軒分の電力を賄うことができる。年間にすれば約2万6千㌔ワットに相当し、設備投資を概算10年程度で償却できる想定だ。メンテナンスは、水路のごみを取り除くのが主な作業で、農作業に近い性格のもの。純国産のエネルギーで、CO2も出さず、水と斜面が豊富な中山間地域には適した方式と思われる。

 実際、過去には日本各地で小規模な水力発電会社が乱立し、競争していた時代もあった。黒森の近くの和田地区には、地元の人によると大正時代に「電気をつくっていた」といわれる水をためる石造りのタンクの跡が存在する。しかし、現在は、河川法や電気事業法の規制を受け、9電力会社を中心とする集中型発電体制になっている。

  

▪申請手続きの壁▪

  

地元の人に水力発電の跡といわれている森の中の石組み

 「技術的な問題より、河川法と水利権の問題が何百倍も重いですね」と曽根原さんは嘆く。河川法では、一般的には水利権といわれる「流水の占用の許可」が必要なことを定めている。また、発電施設のための「土地の専用の許可」「工作物新築の許可」なども必要とされ、一級河川については国が、二級河川については知事が、それ以外の準用河川については市町村長が、それらの処分権者だ。この許可を得るためには、小水力発電も、ダムによる大規模発電も、ほぼ同じくらいに煩雑な申請過程を踏まなくてはならない。

 河川の流量や取水量、治水上の影響を調べ、他の水利権者や河川の利用者、漁業者などの意向を聞き、さらに関係する法令の規定をすべてクリアする。「小水力発電にとっては、とてもコストに合わない」。河川法の意図はどうあれ、それによって事実上、小水力発電の可能性は、きわめて狭められているのだ。結局、中山間地で、すぐに発電に使える水は、河川法の適用を受けない川へ流入する以前の湧水や、農業用水が農地を通過した後の水、いわゆる「落ち水」ぐらいだという。北杜市や山梨県、国交省、内閣府などと様々に課題整理のための協議を行ったが、現状では可能性はゼロに近いと、いったんはあきらめたという。

 ところが最近になって、その状況を突破する可能性が出てきた。6月に成立した「総合特区」法案だ。民間の知恵と資金を生かすために複数の規制・制度の特例措置を掲げる同法案が、「地域活性化総合特区」での小水力発電の許可手続きの簡略化を挙げたからだ。今、曽根原さんは、特区指定を目指し、県、県立大学とともに自然エネルギーをテーマにした地域協議会の準備会を始めている。小水力のほか太陽光、バイオマス、水素燃料電池など、県内の様々な素材を探し、産業界を巻き込んで技術開発を行い、地域の戦略を形成したうえで、特区の申請につなげようとしている。

 法の壁を超える試みが成功したとき、初めて小水力発電が、明日のエネルギーとして現実味を帯びてきそうだ。

                     (グリーンパワー2011年10月号から転載)

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