八郷(やさと)茨城県

筑波山麓の茅ぶき集落

筑波山麓(さんろく)に茅(かや)ぶきの民家が40戸点在。「筑波流」のふき方は、軒を何層にも彩るなど粋な工夫を誇る。持続的な農業にも積極的。やさと茅葺き屋根保存会も茅刈りなど活動中。写真は大場家。

  • 交通:JR常磐線石岡駅から車で50分/常磐道千代田石岡ICから車で20分
  • 特産:イチゴ、梨、ブドウ、リンゴ、柿などの観光果樹園が多い
  • 直売:柿岡直売所 0299-44-8310/ゆりの郷物産館(立寄り温泉に付属)0299-42-4126
  • 宿問い合わせ:石岡市観光課 0299-23-1111
  • 関連ウェブサイト:石岡市八郷商工会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

2020年11月24日

筑波山麓 八郷茅ぶき民家を訪問しました

やさと茅葺き屋根保存会の会長を務める大場克巳さんを訪ねました。江戸時代に建てられ、2005年には国の登録有形文化財に指定されました。大場さんご夫婦は今も居住し、維持しています。
保存会は、つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の敷地内で、KEKと石岡市の協力のもと、茅ぶき屋根保有者と行政、学生、市民のボランティアが集い、茅を刈り取る活動を毎年続けています。
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2013年01月21日

ルポ にほんの里100選25 藤原勇彦 グリーンパワー2013年1月号から

 

自転車で回る茅葺きのある風景 / 保存と観光支える現代の「結い」

  

 紅葉、黄葉、緑の木。11月24日、茨城県石岡市八郷(やさと)のモザイク状に色づいた晩秋の田舎道を、約20台の自転車が走った。ロードレーサー、クロスバイク、マウンテンバイクに交じって、健脚の乗ったママチャリも堂々同じペースで付いてきている。「やさと茅葺(かやぶ)きサイクリング」。八郷に多く残る美しい茅葺き屋根の民家を、次々に自転車で訪ねながら、農村風景を楽しもうという催しだ。

 地域に点在する茅葺き民家を訪ねるには、どこでもすぐに止まれて、なおかつ相当な距離を移動できる自転車が最適。「やさと茅葺き屋根保存会」メンバーで、サイクリングのインストラクターを務めた、新田穂高さんのアイデアだ。今回が初めての開催で、千葉から来たという建築に興味を持つご夫婦や、自転車好きのグループ、雑誌で催しを知った単独参加の人など、多彩な顔触れがそろった。およそ50㌔㍍のコースを、ゆっくり1日がかりで回る。

 八郷の茅葺き屋根民家は、150年ほど前の江戸時代に造られたものが多い。気候温暖で土地が広く、稲作はもちろん、カキなど果樹栽培で豊かだった豪農の家は、広い敷地に、母屋のほか長屋門や書院、土蔵などが並ぶ。 

  

職人が技を競う

 

「大場家」の棟の端の模様「キリトメ」

 屋根は「つくば流茅手(かやで)」と呼ばれる職人たちが、技を競って意匠を凝らした。古い茅と新しい茅を交互に葺いて軒下に縞模様をつくる「トオシモノ」、シュロの飾りを棟にあしらった「大名ぐし」、棟の端に竹の小口などで文様を描く「キリトメ」など、つくば流ならではの技法が、各所にあしらってあり、全国的にも美しい茅葺きとして認められている。現在、八郷には、このような茅葺き民家が70棟近く残っている。

 この日、「やさと茅葺きサイクリング」の一行が訪ねた茅葺き民家は、石岡市の歴史体験公園「常陸風土記の丘」に移築保存されている民家群のほかは、すべて今も住居として使われており、普段は勝手に訪れることはできない。「木崎眞家」は厚みのある緩やかな屋根の曲線が美しい。モチノキの生垣「いきぐね」に囲まれた「三輪家」、街道沿いの旅籠(はたご)だった珍しい2階建ての「綿引家」、幕末の志士で歌人「佐久良東雄旧宅」、観光農園をしている国の登録有形文化財「大場家」など、特色を持った家々だった。

 それぞれの家で、当主や家族が屋根の特徴や、手入れの

「大場家」の棟飾り「大名ぐし」

苦労を語ってくれた。昔の茅葺き職人の名人が造った「キリトメ」の模様の美しさ。軒の高さ、屋根の厚み、曲線の工夫。一方、生活様式の変化で、囲炉裏(いろり)などの火を焚(た)く機会が減り、屋根を煙でいぶせなくなったため、本来25年は持つはずの屋根が15年くらいで葺き替えなくてはならなくなったこと、茅の確保の難しさ、職人が減っていること、葺き替えの費用、さらに、当主の高齢化などの悩みものぞく。それでも、先祖から伝えられてきた茅葺き民家を、できる限り伝えていきたいという誇りと愛着が、言葉の端々からしのばれた。

 茅葺き屋根は、かつては地域の農業や自然の循環のひとコマだった。地域には「屋根を替えると米がとれる」との言い伝えがある。傷んだ古茅を堆肥(たいひ)にして田に入れられるからだ。

  

手入れ方法の継承が課題

  

「木崎眞家」の母屋(右)と書院

 茅は屋根を葺く材料の総称で、八郷ではススキを主とし、集落内の傾斜地などにある共同の茅場で毎年刈り取っては、2、3軒ずつ葺き替えをしていた。毎年刈った方が、土地が痩せて、細くてしなやかなススキがとれ、扱いやすくなるという。茅葺き屋根は日頃の手入れが肝心。葺き替えた後も、5年後ぐらいから、部分的に補修にかからなければならない。

 近年は茅葺き民家が減り、地元の共同作業「結い」が成り立たないため、手入れのための茅の準備から職人を頼む家も出てきた。農業で生きてきた世代のいる家では、手入れの方法を知っている家人が手伝うため、維持費用は年間20万円程度で済む。

 しかし、若い世代は兼業農家で勤めの人も多く、手入れの方法の継承が課題の一つになっている。また、共同

小さな虚空蔵堂の前を通るサイクリングの一行

の茅場がなくなり、個人で茅場を持ったり、空き地などに生えたススキを許可を得て刈っている家もある。

 「やさと茅葺き屋根保存会」は、茅葺き民家の持ち主、茅葺き職人、茅葺き民家に関心を持つ人々が、2004年に結成した任意団体。茅葺き屋根を保ってきた農村の文化を次世代につなぐことを目指し、毎年秋にボランティアを公募して茅刈りを行うほか、民家の見学会、持ち主との交流会、若手職人の養成への協力などをしている。

  

素粒子研究機関で茅刈り

 

  ボランティアの「茅場」がユニークで、なんと最新の素粒子物理学の研究機関だ。八郷からほど近いつくば市にある大学共同利用機関法人・高エネルギー加速器研究機構の広い構内にススキが生え、毎年刈っては処分していたことを知った保存会の関係者が、茅葺き屋根に使わせてほしいと申し入れた。機構の協力で、10年近く前から茅刈りが実現し、刈り取った茅は、民家の持ち主に分配している。集落の枠を超えた、これも現代的な「結い」かもしれない。

 茅葺き民家の保存について新田さんは、「旧家の多い持ち主にとっては、先祖から引き継いだ家への愛着であり、地元にとっては、美しい農村地域・八郷のシンボル。観光資源としての期待も大きい」という。

 「大場家」で手づくりの甘酒を振る舞われたサイクリングの一行が帰途に就くころ、茅葺き民家の彼方に、逆光の筑波山がそびえていた。春ごろには、2回目の茅葺き探訪サイクリングが、今回とはコースを変えて予定されている。

                                         (グリーンパワー2013年1月号から転載)

 

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