曲川木の根坂(まがりかわきのねざか)山形県

「ゆい」結束し頑張る

豪雪地。作業を助け合う「ゆい」の結束が固く、閉校した分校校舎を体験型宿泊施設「みやまの里木の根坂」に。生物調査も行う。

  • 交通:JR奥羽本線新庄駅から車で40分
  • 特産:鮎、モクズガニ、山菜、キノコ
  • 食事:みやまの里 木の根坂 0233-55-2612
  • 直売:産直さけまるくん(鮭川村エコパーク 鮭の子館内)0233-55-4460/産直まごころ工房 0233-62-2316/産直まゆの郷 0233-23-5007
  • 宿問い合わせ:羽根沢温泉旅館組合 0233-55-2081
  • 関連ウェブサイト:鮭川村観光協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

12. 曲川木の根坂

2013年08月07日

ルポ にほんの里100選32藤原勇彦 グリーンパワー2013年8月号から

集落で暮らし続けるための挑戦 / 住民参加型のそば屋は元分校校舎

 
 山形県の大河・最上川中流の岸辺から、北上して山並みに分け入る。集落が切れた後、森に囲まれたつづら折りの小径(こみち)が、どこまでも続く。車がすれ違うのも難しい細さで、所々にヘアピンカーブや片側が崖の切り通しが現れる。この先に集落があるのかと不安になる頃に見えた「木の根坂 この先」の看板に励まされ、到着したのは思いのほか田んぼや畑のある穏やかな小盆地だった。

 

季節の山菜尽くし

ブランコなどが残る元曲川小学校木の根坂分校の校舎と校庭

 鮭川村「曲川(まがりかわ)木の根坂」。集落の中心にある赤い屋根の建物は、元曲川小学校木の根坂分校だ。2007年、生徒数の減少で廃校になった後、村から地元の人が借り受け、手打ちそば屋兼宿泊施設になった。「みやまの里 木の根坂」と命名され、看板メニューは、長年分校の給食を担当してきた井上クニ子さんが作る、そば懐石(1500 円、要予約、電話0233-55-2612)だ。

 

 地元の素材を使っているため、料理の内容は季節によって変わる。山菜の盛期に当たったこの日は、アイコ、シドケ、フキ、ミズ、ウドの葉のおひたしなどが、色良く歯切れ良く仕上がっていた。焼いたネマガリタケ、そばがきを揚げてごまだれで食べるかいもち、キジ肉入りそばも地元の食文化。採れたてのカボチャ、マイタケ、ラディッシュ、キュウリなどの野菜の天ぷらや酢の物に続いて、メーンは地元産のそば粉を使った手打ちそば。デザートには黄粉(きなこ)をつけて味わう粽(ちまき)の一種「笹巻き」や、フキの甘煮が美味だった。
 
 食事をするのは、往時の分校の教室。畳敷きになっているが、黒板がそのまま残る。げた箱や児童の絵が並ぶ廊下の天井を、ツバメがすいすいと飛び回る。屋内に巣を作っているのだ。体育館には卓球台やバスケットボールのリング、校庭にはブランコなどの遊具がまだ健在。片隅の白い箱は、最近設置されたミツバチの巣箱。畑や周囲の山々の緑は濃く、こののんびりした光景が、料理の一番の調味料かもしれない。

集落内の田んぼと遠くに見えるワラビ畑

 

住み続けるために

 曲川木の根坂の世帯数は現在10軒、人口は40人余。冬場は積雪が2〜3㍍に及ぶ。春はフクジュソウ、サンシュユ、マンサク、カタクリなどの花、夏は白いヤマユリ、秋には紅葉が集落を彩る。ヒメギフチョウなど生きものも豊富。田畑で自家用の米・野菜を作るほか、原木ナメコを生産出荷している。春まだ雪のあるうち、ナメコ栽培用のナラやブナを伐採して分校の近くの集積場に集めるのが、集落の人々全員の仕事だ。最近は、ワラビの生産者も増えているという。
 
 民家が点在する集落の主な部分は、ゆっくり歩いても30〜40分ほどで回れる広さ。山の水を引き込んで最近造ったビオトープには、タニシがいっぱい。道端にはフキ、ヨモギ、ウド、ワラビなどの山菜が、当たり前のように生えている。

 

 集落のほとんどの家の姓は、「井上」という。江戸時代に井上姓の人が庄内越えの要所を固める山守りとして住みついたのが始まりと言い伝えられている。以降400 年近く人が住み続け、昭和30年代(1955 〜64年)には、分校に40人近い児童が通うほどだった。近年、少しずつ住人が減り、1936年以来、約70年の歴史を持つ分校は廃校の時を迎えた。

元分校校舎を利用した「みやまの里 木の根坂」の玄関。左手にバス停の標識がある

 
 しかし、住民にとって、分校は単なる教育施設ではなく、地域の暮らしの中心でもあった。「これからもここで住み続けるために、分校を何かに生かしたい」。そんな声が自然に住民から上がり、何度も話し合いがもたれた末に、地元の食べ物を生かし、集落の全員が何らかの形で関わるそば屋を始めることになった。「限界」と呼ばれかねない集落で、現金収入を確保し暮らしを存続させるための挑戦だった。
 

目標の客数は1日20人

 「みやまの里 木の根坂」では、料理の他、1泊5250 円の宿泊や、里山探検、原木ナメコの収穫、ワラビ採り、農園作業など各種体験のメニューを用意している。鮭川村役場を退職し、そば屋の管理を手伝っている地元出身の小嶋邦彦さんによれば、「今はまだ少し赤字」とのことだが、そばの評判もあって県内の山形市、天童市、東根市、宮城県の仙台市などから客が来てくれる。気象条件のため12月から3月までは休業で、営業期間は実質7カ月余しかないが、6月初旬の山菜まつりなどへは、百数十人の来訪者があるという。「平均して1営業日に20人の客があれば、集落の支えになり得る」と、小嶋さんは期待する。

旬の山菜がそろった「そば懐石」

 

 駐車場に車がたくさん止まっていれば、誰言うとなく集落から配膳の手伝いが駆け付ける。「結いなんてわざわざ言わなくても、こんなところでは助け合わなければ暮らせない」。「集落には、結構若い人たちもいます」。最近の集落の喜びは、若い住民夫婦に続けて2人の子どもが生まれたこと。この夫婦のように、車で40〜50分ほど離れた新庄市や真室川町などに仕事を持ち、自然に恵まれた曲川木の根坂で暮らすことは、案外良い暮らし方にも思える。

 

 数年前から、曲川木の根坂の集落は村営定期バスの経路から外れた。今はまだ小さい子どもたちが、就学年齢に達すれば、鮭川村の中心部に近い鮭川小学校まで、スクールバスが運転される予定だ。その日を待ってか、「みやまの里 木の根坂」の玄関前には、今もバス停留所の標識が残されている。

 

(グリーンパワー2013年8月号から転載)

 

サイクル旅日記
ふれあい、自転車の旅
にほんの里100選をめぐった記録
崔宗宝、バリトンの旅
にほんの里100選をめぐる
オペラ歌手 里の歌旅