
里ニュース
[2009-01-06]
寅さんシリーズは今から40年前にスタートしたが、渥美清さんの他界で終わるまでの27年間を、ぼくたちスタッフはこの国の姿かたちがこれ以上変わらないでほしい、破壊と建設や悪(あ)しき変革はもうこれ止まりにしてほしいと、ひたすら願いながら北海道から沖縄にかけてカメラを回し続けてきたように思う。
「にほんの里100選」というタイトルをはじめて聞かされたときに感じたのは、なつかしい風景や誇るべき暮らしの文化を残しているような地方が、ぼくたちの国に100カ所も見つかるだろうか、という不安だった。
しかし、ふたを開けてみて驚いた。寅さん映画の監督として日本中を歩き回った経験などは実に貧弱でナンセンスということを思い知らされた。なんと応募総数4千、立候補と推薦が重なったのをはぶいて2千カ所以上の魅力に溢(あふ)れた候補地がずらずらと出揃(でそろ)ったのである。100選というと1県平均2カ所しか選べないことになる。これは大変なことになったと狼狽(ろうばい)しながらもぼくは自分のお粗末な勘違いが妙に嬉(うれ)しかった。
手分けをして日本中を歩き回るスタッフの苦労は並大抵のことではなかったし、選考委員も迷いに迷った。100にこだわらず、5カ所や10カ所増やしても、という意見もあったが結局100に絞るしかなかった。この100選以外にもこの国にはまだまだ素敵(すてき)な里が沢山(たくさん)あるのだ、ということを読者の皆さんに是非お伝えしたい。
(選定委員長 映画監督・山田洋次)
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[2009-01-06]
冬の夕日を背に、何万羽ものマガンがねぐらに舞い戻ってくる。宮城県の蕪栗沼で、その美しさに目を奪われた。
周りの水田は、マガンのねぐらになるよう地元の人が冬も水を入れる。その水田では、イトミミズが栄養豊富なトロトロの土を作るなど、化学肥料と農薬を減らす効果が生まれる。
屋根をふく茅(かや)、堆肥(たいひ)をつくる草や落ち葉、燃料などを採る草地や樹林、作物を育てる田畑や水路が入り組んで多様な生き物が息づく。その多様性にみちた自然の姿が里の魅力だ。100選が、その価値を見直すきっかけになるといい。
多様な価値をもつ里だが、経済的な価値は失われつつある。住民が良さを認識しないと将来は開けない。そのためには、外の視点を持ち込む「旅人」の役割が重要だ。
農業を格好いいという若者や週末に畑を耕す中高年が増えている。情報面では、インターネットの利用などで里にいながら都市と変わらない生活も可能だ。里と都市の垣根を超えた暮らしが、里を次世代に引き継ぐヒントになるだろう。
ぜひ里を訪れ、その様々な魅力を実感してほしい。里の何にひかれるかは、人によって違うだろうから。
写真1
[2009-01-06]
対象とした里は、集落とその周辺の田畑や草地、海辺や水辺、里山などの自然からなる地域。広さにかかわらず、人の営みがつくった景観がひとまとまりになった地域を一つの里ととらえた。08年1〜3月に候補地を募集。4474件の応募があり、候補地は2千地点以上に達した。
応募者の推薦の言葉や、現地に詳しい研究者、NGO、自治体関係者などの意見を参考に、朝日新聞と森林文化協会が候補地を約400地点に絞り込んだ。そのうえで「景観」「生物多様性」「人の営み」を基準に、現地を調査。集落や水田など、里を構成する12の要素ごとに利用や管理の仕方などを評価した。
調査後、約150地点のデータを選定委員会に提出。11月の選定委員会で論議し、「100選」を決めた。
◆朝日新聞は今後、地域面などで100選の里を紹介する予定です。テレビ朝日系列も11日から毎週日曜(夜6時56分〜)、各地の里を番組で紹介。特別番組も予定しています。4月18日には名古屋大学でシンポジウムと里イベントが開催されます。
【にほんの里100選事務局】
[2009-01-06]
集落が評価された里も多いが、その様式は多彩だ。簡素な印象の関東、雪国の豪壮な家並み、赤い石州瓦などと、それぞれに独自の建築文化を伝えている。急傾斜地の棚田や住居に見られる石垣にも、使う石や積み方に、その土地ならではの文化が息づく。
一方、身近な生き物との共存をめざす里が多いのも100選の里の特徴だ。農薬を減らしたり、耕作を放棄された水田や谷あいの荒れ地を生き物のために再生したりする取り組みが、各地に見られる。
全国の里では深刻な過疎化と高齢化が進んでいる。候補地を歩いた現地調査員たちも「人を見かけることはまれだった」と驚く。そんな中にあって100選の里は、「里の営みを持続させようと努力を続ける元気な里」であるといえる。調査員たちによると、いずれの里にも共通しているのは、活動の中心となるリーダーがいることだという。
【にほんの里100選事務局】
[2009-01-06]
こんなところが残っていたのか。島根の西ノ島へ渡り、感動に包まれた。100選の調査に同行した時のことだ。
麦、豆、雑穀の栽培と放牧を4年サイクルで回す持続的な土地利用が800年以上前から存在したという。今も輸入飼料に頼らない放牧が行われ、入り江わきの傾斜地に牛や馬が草をはむ美しい風景が広がっていた。100選の募集で発掘された里と言える。
あぜで見かけるワレモコウや落葉樹林のカタクリは、実は氷河時代からの生き残りだ。その後の温暖化で昼も暗い照葉樹林が日本全体に広がっていれば生き残れなかったはずだが、草刈りや田起こしがある農耕地で光を手に入れ古い生物相が維持された。大小様々な川の流域に適度に人の手が入ることで複雑な環境が入れ子状に形成され、多様な生態系が育まれた。
人々も自然の論理を重んじ、秩序のある持続的な暮らしを保ってきた。里の美しさの裏側には、こうした生物多様性と秩序がひそんでいる。
だが、里は今、消えつつある。昔の生活に戻ればいいかというと、人口が増え、里も変質した以上、そんなに簡単ではない。新しい保全のあり方が問われている。100選ツアーなど、そのよさを伝える企画をぜひ考えてほしい。
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