因島重井町(いんのしましげいちょう)広島県

「花の島」の復活図る

白滝山と五百羅漢の石仏群がシンボル。多くの島々を望む景観は歌人を魅了。山すそを除虫菊が白く埋めた「花の島」復活を図る。

  • 交通:JR山陽新幹線新尾道駅・JR山陽本線尾道駅から西瀬戸道(しまなみ海道)因島北ICまで車で25分又はバスで50分、因島北ICから車で5分
  • 特産:除虫菊、八朔(発祥の地)、干しダコ
  • 宿問い合わせ:因島観光協会 0845-26-6111
  • 関連ウェブサイト:因島観光協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

71. 因島重井町

2012年10月03日

ルポ にほんの里100選⑮ 藤原勇彦 グリーンパワー2012年3月号から

      

『しげい帖』から『マチオモイ帖』へ / 故郷と向き合う世界に1冊のノート

     

ふるさとへの思いを込めた『しげい帖』

 小さな手のひらサイズの冊子。大空を思わせる明るい青の地に白い菊の花を散らした表紙には、鮮やかな赤い字で「しげい帖」とある。表紙の裏に、「しげい帖は、しげいの昔や今を なんでも書き留めておく なんでも帖です」という説明。関西を中心に活躍するコピーライターの村上美香さんが、生まれ故郷の広島県尾道市因島重井町(いんのしましげいちよう)への思いを、まとめた冊子だ。

 中をのぞいてみると、こんな詩が載っている。

 「『生まれそうになったら みかんの丘にむかって 黄色い旗をふる』 それが私の生前に 交わされた 26才の父と22才の母の 世紀の約束。黄色い旗が見えたら すぐに山から降りるけえ それは、ケータイなんて ないころの やさしい約束。」

 因島は八朔(はつさく)オレンジ発祥の地ともいわれ、島じゅうにミカン山が点在する。村上美香さんは、家を見下ろすミカン山で畑仕事をしていた父と、臨月の母との、こんなやさしい約束のおかげで、この世に生をうけた。冊子には、ほかに、畑のこと、スイカ売り、しょうゆ飯、じいちゃんとの釣り、いんのしま小唄、食べ物や重井人検定など。今の自分を育ててくれた町のことが、自分の言葉で綴つづられている。総ページ数32。小さいけれど中身の詰まった冊子は、昨年、ちょっとしたきっかけがあって生まれた。

     

島あれば海、海あれば……

     

因島重井町白滝山の石仏と瀬戸内海の眺め

 瀬戸内海国立公園に浮かぶ因島は、その昔、村上水軍の根拠地といわれ、今は「瀬戸内しまなみ海道」の橋で本州と繋がる。尾道駅から車で30分ほど。温暖な気候と海・山の幸に恵まれ、因島重井町の白滝山には、大小700体といわれる石仏が並ぶ。山頂からの瀬戸内の眺めは、歌人の吉井勇が「島あれば海 海あれば島」と謳(うた)ったほど。

 化学薬品が普及する以前には、蚊取り線香の原料の除虫菊の産地で、5月には白滝山の裾野を、白い花がうずめつくしたという。今でも、町内数カ所で栽培されており、『しげい帖』の表紙の菊は、じつはその除虫菊をあしらったものなのだ。

昨年1月に開かれた「深川和美の童謡サロン」

 今から1年ほど前、その因島重井町で、村上美香さんの友人で神戸に住むソプラノ歌手・深川和美さんが、童謡コンサートを開いた。因島重井町が「にほんの里100選」に選定されたのを記念して、地元を元気にしようと計画したもので、主催は、白滝山の環境を守る住民の組織「因島白滝山保勝会」(村上吉信会長)ほか。村上美香さんも、プログラムに文章を寄せ、昔遊びのコーナーを設けるなどの準備にかかわった。コンサート当日は、地元の老若男女、200人以上が公民館に集まった。阪神大震災の被災体験から、童謡や日本の歌曲の癒やす力・励ます力を知ったという深川和美さんの歌声、飛び入りの踊りも出た因島小唄の合唱、子どもたち向けの折り紙やゴム鉄砲、シャボン玉などの仕掛けで盛り上がった。

 が、あいにく、村上美香さんはインフルエンザにかかり、会場の様子は大阪で「友人のケータイから中継で聞いた」。参加はできなかったが、その後因島に戻った時、保勝会の村上会長にプログラムの文章を褒められ、「重井町のことを何か書いてみんか。行事の時に配っちゃるけぇ」といわれた。18歳で島を出て以来、いつか恩返しができればと思っていた矢先に「いいきっかけをいただいた」。でも、ふるさとへの思いを込めた『しげい帖』重井町のために何ができるか、田舎のおじいちゃん・おばあちゃんに向けて何を書けるか、本業の数倍悩んだという。

     

社会がこれまでしてくれたこと

          

 ちょうどその時、東日本大震災が起きた。家の裏がすぐ海という環境で生まれ育った村上さんは、ニュースから聞こえてくる沿岸部の町々の名が、耳から離れなかったという。「ふるさとを失くしてしまった方の分の思いも込めて、まず自分のふるさとを思う『しげい帖』をつくることに決めました」。自腹で1000冊作って配ったところ、島内の人にも、島外からの観光客にも、羽が生えたように、手から手へ渡って読まれた。東京や大阪からも、予想以上の反響があり、「刺激されて20年ぶりに同窓会を開いた」という声も届いた。

 デザイナー、写真家、イラストレーターなど、クリエーター仲間にも波紋が広がった。「クリエーターが社会にできることは分からないけど、社会が自分にしてくれたことを綴るのなら、できるかもしれない」。まず大阪で、それぞれが故郷や大切に思っている町を、『しげい帖』にならって冊子にまとめる『マチオモイ帖』づくりがブームになり、昨年6月には、34人の『マチオモイ帖』展が開かれた。その後さらに勢いがつき、今年2月、全国各地を題材にしたミニブック300冊、映像50編の展覧会が、東京で開かれることになる。題して「m y home townわたしのマチオモイ帖」。

 案内文には、こうある。「人々は今、家族や友だち、地域とのつながりなど、自分を育んできた大切なものを、あらためて見つめ直し始めています。それは、東日本大震災を境に、日本に暮らすひとりひとりの心の中に意識された素直な気持ちです。そのような気持ちが、さまざまな『町』の姿を伝える冊子や映像となることで、さらに多くの人々に、地域や人や社会に対する関心と共感を呼び覚ますことでしょう」

 村上美香さんは、深川和美さんがたくさんの人の歌声を集めてつくった東北応援歌声メッセージ『えっさほいさっさ』CDのアートディレクションも担当している。マチを思う心は、根っこで社会を思う心につながっているのだ。

 「m y home town  わたしのマチオモイ帖」展は、2月26日まで、東京都港区赤坂のミッドタウン・タワー5階 東京ミッドタウン・デザインハブで。入場無料。

 東北応援歌声メッセージ『えっさほいさっさ』CDについては、http://essahoi.net/ をご覧ください。

                              (グリーンパワー2012年3月号から転載)

サイクル旅日記
ふれあい、自転車の旅
にほんの里100選をめぐった記録
崔宗宝、バリトンの旅
にほんの里100選をめぐる
オペラ歌手 里の歌旅