猪苗代湖(いなわしろこ)福島県

里の生活支える湖水

福島を代表する里景観。磐梯山のすそ野に湖と水田が広がり、灌漑(かんがい)、発電、飲料水など湖水が住民の暮らしと深く結びついている。

  • 交通:磐越道猪苗代磐梯高原ICから車で5分/磐越西線猪苗代駅バス10分
  • 特産:米、果物
  • 食事:そば処 下の家 0241-24-3718
  • 直売:JAあいづファーマーズマーケット「旬菜館」0242-73-7622/JA会津みどり「Eな!本郷」0242-56-2978
  • 関連ウェブサイト:猪苗代観光協会

※ 交通アクセスや店舗情報などは、お出かけ前にご確認ください。

※ 車ナビは、里を訪れる際の目標ポイントを数値化したマップコードで、()内が施設名や地点です。地図では★で示しました。カーナビのマップコード検索で利用できます。

14. 猪苗代湖

2012年11月20日

ルポ にほんの里100選⑧ 藤原勇彦 グリーンパワー2011年8月号から

 

有機の里に見えない脅威 / 農業も観光も秋が勝負

 

田植え後の田んぼに、磐梯山が映える

 6月半ば、東北の梅雨入り直前、日差しが注ぐ猪苗代湖畔。田植えの終わった田んぼに、会津の象徴、磐梯山が映り、雲が流れる。標高500㍍から700㍍前後に広がる農地は、これから特産品のグリーンアスパラガスをはじめとする農産品の出荷が、最盛期を迎える。東日本大震災がなく、福島第一原子力発電所の事故がなければ、美しくのどかな田園風景だ。だが、福島県猪苗代町の『広報猪苗代』6月号にはこうある。「目に見えない脅威は、私たちのすぐそばにある。姿すら見えないものに、私たちの生活を、古里を奪われてたまるか」。

  

▪有機の里づくり▪

 

 猪苗代町は、ここ10年近くにわたって農産物から出発した「有機の里づくり」構想を推進している。農産物の地産地消や食糧の自給自足を推進し、太陽光・風力・水力などの自然エネルギーを活用する。生ごみ、もみ殻、畜ふんなどを、できるだけ資源として利用する。イベントや施設の運営などで、町と町民が協働し、情報を交換する。結果として、人、物、金、情報をできるだけ地域内で循環させ、経済活性化と人口減少対策、新たな産業の創出につなげようとの構想だ。

 構想に基づいた具体策として、町内から出る生ごみ、畜ふんなどを集めて堆肥をつくる施設を町が運営している。年間1000㌧以上できる堆肥は、すべて町内で販売する。また、減反対策を兼ねて、ソバの生産から加工、販売までを町内で賄う「蕎麦の里」事業では、大規模生産への助成制度や、作業受託組合のほか、そばを食べさせる直売所を運営したり、町内のそば屋の「暖簾会」を結成するなどで、一時は北海道に次ぐ作付面積を記録するほどになった。

 「猪苗代町は、冬場の雪が深いので、今年採れる農産物は、まだ本格的には出荷されていません。ようやくグリーンアスパラが出始めたところです。本番は秋。町の農産物の売り上げの主たる部分を占めるコメが、市場でどう評価されるか」と、町総務課の五十嵐慎一さんは心配する。「最近、全国的にはコメの値段が2割近くも値上がりしているというのに、猪苗代町のコメは福島県産というだけで上がらないんです」。「去年の秋採れたコメですよ。ちゃんと倉庫にしまってあって、事故の影響は一切受けていないのですが……」。町では5月に、「風評被害対策委員会」を発足させている。

  

▪原発周辺から避難者▪

  

観光スポット「天鏡閣」は、地震で入れない部屋ができたため、入場料を割り引きして営業している

 猪苗代町は、東日本大震災で震度6弱の揺れを記録したが、地震での被害は大きくはなかった。建物が数十棟全半壊し、道路が数カ所で通行止め。人的被害はなかった。水道が止まり、一時町民300人近くが避難したが、1週間ほどで復旧した。

 事故を起こした福島第一原発からは、直線距離で約80㌔。環境中の放射線量については、県のほか、町でも独自に調査しており、その数値は、例えば猪苗代小学校0・196㍃シーベルト/時間、翁島小学校0・157㍃シーベルト/時間(6月15日測定)などとなっている。町では、政府の暫定基準値よりもはるかに低いとしているが、事故以前の平常時よりは高くなったことも認めている。11種類の農林水産物の緊急モニタリング調査では、ネマガリタケとウグイから微量の放射性物質が検出されたほかは、すべて「検出されず」で、現在、出荷停止の対象品目はない。

 地震による町内の避難者がいなくなった4月半ばころ、双葉町、浪江町、南相馬市、飯舘村など原発周辺の市町村から避難した人がやってくるようになった。その人数は、現在、約3000人。人口1万6000人の町に、目に見えて人が増えた印象がある。町では当初、総合体育館を避難所に提供、その後、町内のホテル・旅館などを二次避難所に指定して収容している。

  

▪県全体を安全に▪

  

普段と変わらぬ猪苗代湖の水面

 その避難所の一つ、ホテルリステル猪苗代総支配人の小瀬真男さんは、「双葉町から避難してきた人が750人以上いらっしゃいます。皆さん、いつまで避難が続くか、不安に思っておられるようです。もしかしたら8割くらいの方がもう帰れないと考えているかもしれない。ホテルとしてはとにかく普通の暮らしができるよう対応しています」という。

 リステル猪苗代では、6月初めにミュージシャンや地元スキー関係者とともに、福島に目を向けてもらい一緒に立ちあがろうという趣旨の「GAMBARUZO!ふくしま」イベントを、2日間にわたって開催、県内外から2000人以上の人が集まった。だが、避難者以外の一般宿泊客は、ファミリーや団体とも前年比で大幅に減少している。地元全体でも、観光業の売り上げは、前年比、20㌫からよくても50㌫ほどといわれている。

 猪苗代観光協会は、ホームページで①ライフラインが正常、②他所から避難者受け入れ、③0・015㍃シーベルト以下の環境放射能測定値の3点を挙げて、安全を訴えている。

 しかし、小瀬さんは「だからといって、猪苗代町だけ安全といっても仕方がない。福島県全体が、安定的な状態になり安心して来てもらえるようにならなければ」という。リステル猪苗代では、この夏は例年通り、ファミリー向けイベントを開催するという。気球、プール、フィールドアスレチック……。あえて安全安心をいわなくとも、例年通りすることがメッセージになるとの考えのようだ。

 そして、観光のピークは秋の紅葉。農業も観光も、秋に出る答えを、かたずをのんで見守っている。

                      (グリーンパワー2011年8月号から転載)

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